Sunday, July 06, 2008

物化 - materialization

materializationは〈具体化〉と訳されるが、〈物化〉と訳される場合がある。
例文、materialization of thought into words、考えを言葉で具体的に表現すること。

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活動と言論と思考は、それ自体ではなにも「生産」せず、生まず、生命そのものと同じように空虚である。それらが、世界の物となり、偉業、事実、出来事、思想あるいは観念の様式になるためには、まず見られ、聞かれ、記憶され、次いで変形され、いわば物化されて、詩の言葉、書かれたページや印刷された本、絵画や彫刻、あらゆる種類の記憶、文書、記念碑など、要するに物にならなければならない。人間事象の事実的世界全体は、まず第一に、それを見、聞き、記憶する他人が存在し、第二に、触知できないものを触知できる物に変形することによって、はじめてリアリティを得、持続する存在となる。記憶されなかったとしたらどうだろう。また、記憶がその自己実現のために必要とする物化materializationが行われず、実際ギリシア人が考えたように、記憶をすべての芸術の母とする物化materializationが行われないとしたらどうだろう。そのとき活動と言論と思考の生きた活動力は、それぞれの過程が終わると同時にリアリティを失い、まるで存在しなかったかのように消滅するだろう。活動と言論と思考がとにかく世界に残るために経なければならぬ物化materializationは、ある意味で、支払わなければならぬ代償である。なぜならその場合、「生きた精神」から生れ、実際束の間は「生きた精神」として存在した何物かの代わりに、いつも「死んだ文字」がそれに取って代わるからである。活動と言論と思考の活動力がこのおうな代償を支払わなければならないのは、これらがまったく非世界的性格をもっているために、これらとまったく異なる性格をもつ活動力の助けを必要とするからである。つまり活動と言論と思考がリアリティを得、物化materializationされるためには、他の人工物を作るのとまったく同じ仕事人の技を必要としているのである。
【pp.149-150】

参照【「人間の条件」ハンナ・アーレント著】

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